株式会社富岡食品
- 支援内容:
- 売上・販路拡大
- 業種:
- 製造業
- 代表者名
- 冨岡 宏臣
- 住所
- 〒366-0828 埼玉県深谷市東大沼229-1

販売戦略見直しと値上げ成功で経営回復
次なる目標は海外への挑戦
コロナ禍で外食産業向け売上が激減 経営改善が急務に
富岡食品は大正15年創業、業務用の売上が約7割を占める独立系の大豆加工品メーカー。大手コンビニにおでんの一部具材を納入しているほか、味に厳しい全国有数の外食チェーンに商品を提供するなど、商品には定評がある。
相談前の数年間、売上の15%を占めるコンビニ向けのおでん用厚揚げやがんもどきの売上が、コンビニ側のオペレーション見直しで大幅に減少していた。

さらにコロナ禍でコンビニのおでんが売れなくなり、外食産業向けの商品「お稲荷さん」も売上が減少し大打撃。独立系中堅企業のため、物流面は顧客指定の物流会社を利用。そのためコスト削減は難しい状況にあり、経営改善が急務だった時に埼玉県よろず支援拠点を商工組合中央金庫の熊谷支店から紹介された。
「本当に苦しくて無我夢中でした。何か手を打たないといけない、ヒントがあるかもしれないから1回話を聞いてみようと思いました」と冨岡社長。経営の核心や、外部に話せないことを包み隠さず相談できる場所が必要だった。
販売戦略と営業手法の見直し 懸案の値上げ交渉に挑む
相談を受けたのは食品業界に精通したコーディネーター。販売面の弱点を分析した結果、営業面では訪問件数の少なさ、売上計画、営業会議の内容、営業方法と管理方法に問題点があることが分かった。
また、海外輸入の大豆原材料高騰と光熱費値上がりのため、利益が出ない商品や利益率が低い商品も散見された。それらを値上げすることなく販売し続けており、社内努力でカバーしようとしていたものの業績は振るわなかった。
大手コンビニや有名外食チェーンへ提供されているとおり、非常に美味しいと評判がよく商品のポテンシャルは高いが、コロナによる打撃など外部環境が原因で業績が悪化している一面もあった。
コーディネーターは、相談者の実情に応じた実行可能な提案を模索。
戦略として、高付加価値かつ高利益率の商品に重点を置き、低利益の日配品などは積極的には販売しないという冨岡社長の方針に従い、粗利益の高い商品の集中販売戦略についてコーディネーターが提案した。そこで評判がよく利益率の高い商品「きざみ揚げ」の販売に注力する販売戦略が実施された。
営業では、訪問目的を明確にし、「聞き出す」ことを重視するようにアドバイス。特に、接戦案件は重要であるため明確に管理し、進捗や戦略をチームで共有するよう助言。成功している営業手法をロールプレイングで学び、営業全員が成果を上げられるよう促した。
「専門知識を持ったコーディネーターの提案内容はスッと頭に入りました。特に、接戦案件についての提案は目から鱗でした」と冨岡社長は振り返る。
この結果、以前は個人で判断していたことをチームで考えられるようになり、勝ちパターンが見え始め、営業のモチベーションが向上。バラバラだったチームが一体となった。

また、利益が出ない商品に対しては値上げ交渉を提案し、価格交渉ツールを紹介。原材料価格の高騰にもかかわらず、これまで12年間、お客様離れの不安から値上げに踏み切れなかった。今回コーディネーターからのアドバイスにより、商品の価値を上げ、適正な価格まで値上げすることを決定。
支援ツールとして中小企業庁編「経営力向上のヒント」、中小企業庁編「価格交渉ハンドブック」、「埼玉県 価格交渉支援ツール」をコーディネーターより紹介。値上げ方法のレクチャーも行われ、社内で活用された。

値上げはお客様に頭を下げなくてはならず、営業にとっても大変なこと。初めは社内からも相当抵抗があったため、冨岡社長は、値上げとともに商品の価値も向上させ、お客様に納得してもらえるよう努力することを社員に説明。「本当に苦しかったですが、苦しい時だからこそ思い切ったことができたと思います」と冨岡社長。
当初は毎月の相談で、月次の数値をチェックし改善点をアドバイス。現在は2か月ごとに、新商品開発戦略や既存直営店の増設、新商品の直売、工場設備の自動化など、今後の戦略についての支援が続けられている。
5回の値上げが功を奏し利益が約7倍に 新規顧客獲得も好調
富岡食品は、粗利益の高い商品に集中する戦略を積極的に推進し、5回の値上げ交渉を実施。全て達成された。これにより、お客様が離れることはほとんどなく「商品を非常に評価してもらえている」と冨岡社長は感じる。バイヤーや消費者からは「価格だけで選んでいるわけではない。富岡さんの味、商品がいい」との声が多く聞かれた。
商品の価値が認められ、経営が改善したことで、社員に自信が生まれた。現在も値上げ交渉が続けられている。
味が評判を呼び、営業の新規獲得件数は4〜5倍に増加した。固定費率の低下と生産性の向上により、令和3年から4年にかけて年間1億円のコストダウンを実現。コロナの5類移行に伴う外食産業の復活も手伝って、2024年3月期の売上高は昨対比115.8%UP、経常利益は昨対比696%UPと大幅に改善。債務超過は解消した。

また、経営が改善したあとの施策として、生産数量を増やすために生産性向上に向けた取組みの検討を提案したところ、同社は工場の機械ライン合理化、省人化のための設備投資を決定。設備投資はすでに実施され今期から本格稼働を予定している。
「食品の専門家であるコーディネーターのアドバイスはとても信頼できました。不安な時には背中を押してもらい、分からないことには的確な助言をもらい大きな支えになりました。特に適正な価格に値上げできたことは大きく、経営が安定し社員の表情も明るくなりました」と冨岡社長。
これまで風通しの良い社風を目指し、主体性を持った人材を増やすための環境作りを意識してきた富岡食品。今、それができている。商品開発や改善活動などに自発的に取り組み、部署を問わず意見を自由に交わす。社長に対しても率直に意見を言うが、最終的に決定したことについては全員で一丸となって向かっていく。
近年、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジアなど海外で植物性タンパクが注目され、需要が高まっている。この流れに乗り、今後は輸出拡大を進め、積極的に市場を開拓していくことだろう。
